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【Identity Crisis】



2004年7月の日記

『幸福感』
2004年07月24日(土)[48]

診察日だった。

主人格は自然と交代するものらしいが、【ひかる】のままだ。
普通は「私は女性です」と言い切る、実年齢と同じか、少し上の者が相応しいのだ。
自分の様に「性別不明」の上に「男性の可能性」が在る場合、主人格には向いて居ない。

何故、交代する「女性人格」が居ないのか。

ノートの「彼女達」の言葉から推察すると、全員『PTSD』が在るのだ。
「彼女達」は「女性で在る事」が、自分よりも苦痛なのだ。

女性に生まれた喜びを知って居るのは、11歳の少女の人格のみだ。
11歳で15歳らしく振舞う事は、不可能だと思われる。
自分が「女子」として振舞う方が、自然に見えるだろう。

薬は変わらなかった。
「恋愛の対象が女子」と言う点については、自分は誇りに思う。
相手が佐伯だからだ。

佐伯が、【ひかる】に好意を持って居る事を、光栄に思う。
長谷川が、【ひかる】を友人だと認めてくれた事を、光栄に思う。
深谷が、【ひかる】に何でも遠慮無く打ち明けてくれる事を、光栄に思う。

一美君が、【ひかる】を性別に関係無く、対等に見てくれる事を、光栄に思う。

一美君は、男女の「区別」と「差別」を理解して居るのだ。
各務君達は、【ひかる】の『心の病』を知った上で、理解しようと努力してくれて居る。

二十七日から、皆で海水浴に行く予定だ。
三泊四日で、安価な和風旅館を予約した。
今から胸躍る想いだ。

今、自分が恵まれて居るからこそ、河野真由美が気になるのだ。


一秒でも多く『幸福感』に包まれたい筈だ。
この世に「生」を受けたからには。

ダイアモンドのピアス
2004年07月21日(水)[47]

再度、宝石店へ行った。

金額は十万円まで。
自分の絵には価値は無いが、【真理子】の絵が売れたのだ。

【真理子】は彼を愛して居る。
【真理子】は
「この金で、彼とペアのアクセサリーが欲しい」
とノートに書いて来たのだ。

【真理子】の金なのだから、【真理子】の主張は筋が通って居る。

自分は店員に、ペアのアクセサリーを探して居る、と伝えた。
予算は十万円だと。

店員は自分の耳を見て「相手の方もピアスをして居ますか?」と訊いた。
彼は方耳ピアスだったので、はい、と答えた。

店員は「今セール中なんです」と言って、ピアスを見せてくれた。

シンプルなプラチナ台のダイアモンド。
改めて見ると「宝石の王」の異名の名を取るだけの事は在る、美しさだ。

半額で税込み十万円。

ふと、佐伯の横顔が、頭を過った。

佐伯はピアスをして居る。
ショートの髪が風に揺れる度、煌くダイアモンドは、佐伯の美貌を際立たせるだろう。

自分は、その場で「ダイアモンドのピアス」を買った。

彼にプレゼントする気は、全く無かった。

「男性人格疑い濃厚」
2004年07月17日(土)[46]

診察日だった。

話は【ひかる】の性別に集中した。
男性の人格で在る疑いが、突然、濃厚になってしまったのだ。

先日、生理になった時の話だ。
腹痛と出血と目眩。
自分は「末期の大腸癌」だと思って、遺書を書いたのだ。

目覚めた時、着替えられて居た。

自分の遺書に【真理子】を筆頭に、女性の名で

「生理が判らないなんて」
「相手が美人だからってキスして喜ぶとは何事だよ」
「好きなタレント、女ばっかだよね?」
「なりたいタレントに男を答えたわね」
「主治医に自首して貰います」

と書き込まれて居たのだ。

自分は「体が女だから女ですよね?」と主治医に言った。
主治医は「はい。そう思っててくれないと治療が困難になります」と言った。
話を逸らされた気がしたが、女と認めたと判断して、安心した。

帰りに盗み見ると、カルテは「男性人格疑い濃厚」に書き換えられて居た。

見なかった事にしよう。

夏休み
2004年07月15日(木)[45]
今日から、夏休みだ。

何か引っかかったままだ。
「変化」の無い者は、存在しないのだろう。
自分も「良い方向に変わりたい」と、常に願って居る。

其れが難しい事だと、痛感した。

世界中が敵に見える、と。誰もが心の奥底に持って居るのだ、と知らなかった。

表面に現れるか、如何かの違いだったのだ。


無視
2004年07月10日(土)[44]
診察日だった。

この一週間に起こった出来事を、簡潔に説明したつもりだ。
箇条書きにして読み聞かせたのだから、主治医に正確に伝わった自信は在る。
最も悩んで居る事を、愚痴るつもりだったからだ。

愚痴は長くなる。

自分達は、河野真由美を無視して居る、と言われて居るのだ。
誤解だ。
無視して居るのは、河野真由美の方なのだ。

まるで「全教科追試は貴方達の責任」と言わんばかりの態度なのだ。

佐伯が一美君の上の結果を出した事に対しても、だ。
「佐伯が一美君の邪魔をした」とでも思って居るのかと疑問に思う。

佐伯が勝気な性格で、明晰な頭脳を持って生まれただけの事だ。
外見も含めて、そういう者に生まれた「罪」は無い。

民主主義国家に於ける、平等の究極の姿が、他人との「苦痛を伴う骨肉の争い」だ。
何時か、大人になる。

現在の親友が、未来の敵で在る可能性に気付くのは、男子生徒の方が早い。
女子生徒は「専業主婦」と言う「逃げ道」が在るから、悠長なのだ。

佐伯の様に「結婚」の二文字が頭に無い女子は、既に知って居る。

それだけだ。

テスト結果発表
2004年07月09日(金)[43]
テストの結果、佐伯は数学一位を取ったのだ。
「女子生徒は数学や理系教科に弱い」と言われる定説を覆してしまった。
校内騒然になった事は書くまでも無い。

一美君は数学42位だった。
50位以内は優秀な結果だが、佐伯のインパクトが強すぎて、目立たない。

自分は古典一位だったが、反応は「また、あの子か」程度だ。

日本史は81位だった。
皆は喜んでくれたが、50位以内に入れなかった事は悔しかった。

深谷は英語22位。
優秀な結果だが、河野真由美に時間を割かなければ、もっと上位に行けただろう。

長谷川は現社46位。
50位を目標にしたとは言え、全教科平均以上という所が「長谷川らしい」と思った。

各務君は物理一位。
【ひかる】と同じく「また、あいつか」という反応だった。

水島君は化学32位。
北山君は生物14位。
一美君は理系教科全て50位以内だった。

この四人が、自分を赤点から救ってくれたのだ。
四人も古典の赤点から救われた、と互いに肩を叩き合って喜んだ。

河野真由美は、テスト結果以前の問題になった。
唯一、得意教科の現国のテスト中に、手首を切って、テスト用紙を血で汚したのだ。

この時、誰も気が付かなかったのだ。

女子生徒の誰かが、悲鳴を上げても不思議では無い。
けれど、現国の上位は、女子が争うので、他人には眼を向けなかったのだ。

男子も当然「日本語で赤点なんか取ったら恥だ」と真剣だ。

河野真由美の全教科追試は、佐伯の数学一位と同じくらい騒がれた。

ブルームーンストーン
2004年07月04日(日)[42]

宝石店へ行った。

彼の誕生日に、ペアのネックレスを買おうと思ったのだ。
彼は赤が好きだ。
赤い宝石と言われれば、先ず思いつくのは「ルビー」だ。

けれど、そんな高価な物は買えない。

店内を見て居ると、赤い宝石は意外と多かった。
最も安価で、種類の多い品は「ガーネット」だった。
店員の女性が、恋愛成就の効果が有る、と説明してくれた。

自分は、そういう非科学的な事に興味は無いが、ペアで持つに相応しいと思った。

ふと思い出して、店員に訊いてみた。
ブルームーンストーンは簡単に割れる程、柔らかい石なのか、と。

店員は
「恋人の想いが冷めて片想いになると割れる、と言われて居ますね」
と営業らしい笑顔で言った。
「けれど、実際には有り得ませんよ」

科学的に否定されたにも関わらず、迷信を信じる自分が居た。




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